あなたは、私を残して行ってしまった。 雨上がりの景色は、以前とあまり変わりない。 壊れかけ、錆付いたフェンスは濡れていて、交差する部分に、雨の水滴が集まってくる。 私は、滴り落ちる瞬間を捉えたくて、しばらくその水滴を眺めていた。 自然の丸みを帯びた水の形状は、その先の景色を真逆に映している。 その光景に、強く心が惹かれているのがわかる。 人影のない街の風に、髪がなびくと、少し心が痛んだ。 水滴は、随分前に私が流した涙と似ている。 私は取り残されてしまったのだ。 文明崩壊後の世界は、ひっそりと止まっている。 こうなる事は、薄々わかっていた。 あなたとはもう、二度と会う事は出来ないのかも知れない。 同じ感覚を共有出来ているという郷愁や、志を同じくする人と違う形で繋がる事は出来るかも知れないけれど。 あえて言ったの、あまりにも、あなたは遠いから。 大好きだとわかっているから、つらくて苦しくて涙が溢れてしまうの。 あなたと近い存在であっても、あなたには、もう言えないの。 崩壊した世界の後で、一緒に居る事は、無意味なの。 どこまで行ったとしても、あなたとの関係性は、変わらない。 涙が滴り落ちたとしても、もう時間が戻ることは、二度とないの。 赤い糸で繋がっていると思っているのは、私だけなのかも知れない。 これ以上、近づいてしまうと、気持ちが抑えられなくなりそうで、怖いの。 今の、私のままで。 今を続ける以外に、道などないの。 左手の赤い糸は、私の体内にめぐる血液のように赤い。 色を無くした世界に、ひときわ際立つその赤は、私の想いの色。 それは、あなたといつか結ばれるために。 そう願って、ひっそりと身に着けている。 植物が育ち、風が吹き、壊れた建物が静かにたたずんでいる。 整える事を諦めた周囲の建物達は、変わらずそこにある。 環境は、少しずつ変化するが、私は何も変わらない。 これは、変わることが無いのだろう。 私は、チューニングを合わせる。 残された静けさの中に、焦燥感を感じているのは、ラジオから聴こえる音。 ザーッと鳴る音の中に、あなたを探している。 あなたには　本当の切なさを　言えないの。 それは、意味の無い事で、言葉にすればきっと自分を責めてしまう。 そして心が湿って行くから。 何もかも過ぎた今は、今が穏やかに過ぎる事が、特別なのだと思う他ないもの。 この赤い糸をたぐり寄せる事はしないわ、もし運命が私達を導くなら、きっと、また会えるはずだから。