『未来の私へ お久しぶりですと言うには随分と時が経ってしまいましたが、お久しぶりです。 元気ですか？ 何だかもどかしいので敬語やめます。 えっと、今日の夜空には綺麗な満月が浮かんでるよ。 小さい頃から好きだったよね、月を観察するの。なんでだろう。 月を見ると未来のことを考えてしまうの。 でも今の私に｢夢｣とか｢希望｣とか、そんな輝かしい言葉は似合わない。 あるのは｢孤独｣と｢不安｣だけ。いつからこうなっちゃったのかな…。 小中学生の時は楽しみで仕方なかったのに。私はどんな大人になるんだろうって。 ねぇ、教えて。私はどんな大人になってるの？ 窓ガラスに映る自分の顔を見ても、ちっとも想像ができない。 よく大人は言う。今の私ぐらいの年齢の時が1番楽しいよって。 でもさ、そんなの人それぞれだよね。私は未来の私に期待する。 どんなことでもいい、楽しいって思えることに出会えますように。』 深夜1時。何気なく始めてしまった部屋の片付けをしていると、10年程前の手紙が出てきた。私が私に宛てた手紙。 あの頃、特にやりたいこともないし、このまま大人になったらどうなるんだろうって不安でいっぱいだった。なんとなくで入った大学も、楽しくなかった訳では無いが、通っている価値をなかなか見いだせずにいた。 ｢私は何をやりたいの？どんな大人になりたいの？｣ 日々自問自答を繰り返した。 結局就活はせず、フリーターとしてずるずると生きてきた。 ｢何見てるの？｣ 旦那が覗き込んでくる。 ｢あれ、まだ起きてたの？｣ ｢明日休みだからね｣ ｢そっか｣ あの頃の私に言いたい。人生なんて人それぞれなんだから。やりたいことがなくたって生きていけるし、私はこうして愛すべき人と出会って日々幸せな生活を送っている。 何が起こるか分からないのが人生だよ。私だってこの先何が起こるか分からないもん。 目先の心配をするより、今を全力で楽しんで。 それをできるのが私なんだから。 カーテンを開けて外を覗いてみると、今日もあの頃と同じ、満月だった。

昭和四十一年、高度経済成長にわく日本、量子学の学匠、天木教授は、 いずれ人類は文明の進歩の陰で起こる環境破壊、 ウイルスなどの脅威により存命の危機に直面すると警告、 新世界の発見こそ人類存亡への光だと公表した。 そして研究の末、別世界の存在を確認することになる。 「聞こえた！」 “月は満ち、、欠け、、生ま、れ変わる、、何度も、、闇は前触れ、恐れるな” “希望は、、闇、探し、、行きなさい、勇敢な子達よ” 幼少の頃より幾度となくこの声を聞いていた風花は、 この謎を父、天木教授のもと解き明かそうとしていた。 「別世界との結びつきが必ずある、、」 「月、希望、、生まれ変わるは転生の事？子達は、、誰、私？」 思考を巡らせる日々、月日を重ね一つの答えにたどり着く、 「月の満ち欠けに新世界が隠されている！」 その時だった、 　 「あの声だ！はっきり聞こえる」 “約束の時が、、来た” “光のない月、十三夜現れ、新月の夜、湖となり照らす、扉だ、、子達よ、むかいなさい” その瞬間、謎は解けた、 「完全な満月ではない十三夜の月、光のない部分それは三日月型だ、それが形どる湖に光が生まれる、それこそ新世界への扉だ！」 風花は全てを悟ったのだった。 「十三夜は新世界の存在を示し、新月は成長を映し、光に包まれる満月は新世界の誕生を表している」 そして声の主は誰か、自分自身が何者か、なぜ今に至るのかを。 今、風花は北海道にある三日月型の湖にいる。 「行ってきます」 新月の闇、湖面に浮かぶ光の中へ、風花は消えていった。 別世界の地、現れたのは風花だけではない、 風花の前世、前々世、どこまでさかのぼるのだろうか、 アジア、ヨーロッパ、アフリカ、多種にわたる人種、子供からお年寄り、赤ちゃんまで、生を受けていた頃の選ばれた姿で。 「魂の声、、ここに居る者すべてが子、みんな同じ魂で生まれ変わったんだ、、私が一番フレッシュかな」 久しぶりに風花は笑った。 一人、そして一人と目が合い、互いに全てを悟ったことを確認するように、頷く者、微笑む者。 この魂を宿した者が転生の際に交わした約束、それは人類を受け入れる新世界を作る事だった。 私達は新月の中、魂となる、やがて満月に向かう時、乾いた地へ迎えにゆく。 乾いた地、、そこは、、

君に恋をして、真実の「愛」を求めた そして、君は今まで以上に遠ざかってしまった 悩んで、悩んで、葛藤し、そして躍り出てくるのはやっぱり「愛」だった 徐々に遠ざかる君の姿 君が遠ければ遠いほど、私の心は割れ混じり、そして「愛」が見つかる 私はその「愛」を信じて、ただ君を追いかける また君は遠ざかり、そのたびに私は追いかけて、君は遠ざかり、私は追いかけて... 君が私に優しくするたびに、この「愛」は霧と化し揺れ蠢く 私が求めるのは真実の「愛」だから、永遠を誓って欲しい けど永遠を期待して、それが有限だったら... それが真実の「愛」でないならば、私はきっと壊れてしまう もし未来が分かるなら、私は君のそばに居続けることができるの 私は涙を流し、君に不確定な言葉を求める 「　　　　　」 その言葉に意味なんてないけど、なけなしの安心をもらい、私は今日も月に眠る 夢の中では、真実の「愛」があった 朝起きたら...

僕が部屋に入ると、君は窓辺で爪を切っていた。 「今日は早いのね」こちらを見ずに言う。 早かろうが、遅かろうが、僕になんか興味ないくせに…。 「ごめんね急に用事できちゃった」 　そう言って、ひらりと降りる。 相変わらず羽があるみたいにふわりふわりと部屋を移動する君は、現実味がない。 「新しい男ができた？」 　君は一瞬止まって笑う。 「いやだ『新しい男』だなんて、キミらしくない言い方」 真っ赤な、シースルーのドレスの裾を捲し上げ、 その透き通るような白く細い足を、 蛇のように僕の心に絡めてくる。 　君はいつもそうだ。 　お陰で僕は君から離れることができない。 「心配しなくても、キミは私のいちばんだよ」 　ウインクひとつで、この部屋を出て行く君のことを止められない僕は、胸の中に飼っている『嫉妬』という怪物をさらに成長させて行く。 　僕じゃ埋められない君の心の虚を、埋めてくれる誰かを探して、夜毎光の中へ泳ぎだしてく君のこの部屋で、小さな水槽の中の真っ赤なベタは静かに僕をみつめてる。 　私の本当はここにあるーーそう言っているように。 　だけど、それはそれで、君に嫉妬している僕の心を 見透かされているようで居心地が悪い。 さっさとエサをあげて帰ろう。 　きっとまた電話がかかってくる。 「ねぇ、キミがいない部屋はつまらないの」 　どんなに勝手な言い分に聞こえるだろう。 それでも僕は君の奥底の叫びに手を差しのべる。僕を求めてくれる限り、どんな所にでも駆けつける。

　ここは、すべての命が終わった世界。 　誰もいない静謐な宇宙で、私は息をしている。 　こここそが、私の望んでいた場所。 　息をしているだけの自分を、心から肯定できる場所。 　旅立つその時、たくさんの声が私を呼び止めた。 「行かないで」 「ここにいて」 「あなたのことをこんなにも想っているのに」 　愛は足枷。夢と希望は、ベルベッド製の手錠だ。 　でも、あなただけは言ってくれたね。「行ってらっしゃい」って。 　涙をこらえて、笑顔で手を振ってくれたよね。 　あなたの声、ここからでも聞こえてるよ。 　たくさんの「愛してる」を詰め込んで、私の名前を呼んでくれている。 　でもね、もう、大丈夫だよ。 　私は、あなたと出会えただけで、どうしようもなく幸せだから。 　だから今度は、私の番。 「行ってらっしゃい。どうか、元気でいてね」

　今でも鮮明に思い出せる。 水面に沈む瞬間に見える銀の水面、腕を動かすたびに水中で砕ける空気。必死に息をした二五メートルプールの底で、あの日の自分がまだいるような気がした。 大人になってふと蘇るのは、あの冷たい水中の事ばかりだった。 キーボードを叩きながら、死んだように仕事をこなす日々を繰り返していた。そこにあの頃のような懸命さはなく、そこにあの頃のような喜びもない。 死んでもないのに、死んだような目で過ごす日常。懸命に動くのは心臓の鼓動だけ。 終電から降りて薄暗い帰り道を歩いているとスマホの着信音が鳴った。反射的に出ると、懐かしい声が聞こえる。 「よう、元気か？　雪」 「……高校の卒業ぶりかな？　奏多くん。元気だよ」 　高校卒業と同時に疎遠になった元彼からの着信に少しだけ震えた。指先からじんとあの日の約束が心だけを幼くしたようだった。 　――誰のものにもならないで。 　愛というものを依存と勘違いしていたのかもしれない。私も彼も互いを独占することでしか繋がれなかった幼い恋だった。 　それでもあれだけ誰かに真摯に向き合うのは、最後の恋だった。 「同窓会？　来る？」 「えっ、ああ。うん。行くよ」 　久々に交わす言葉はぎこちなくて、たどたどしい口調はそれでも何故か愛しかった。 「なぁ、今でも泳いでるの？」 　ドクドクと動いていた心臓が急に静かになる。指先が震える、あの冷たい水を切る感覚が懐かしくて。泳ぐことは何処だってできた。それでも、今は何処に向かえばいいかわからなくて泳いでも目的の見えない迷路にいるようで、上手く息ができなかった。 「あ……。ううん」 　それだけ言うとお互い押し黙った。 　痛いほどの沈黙の後に彼が一言告げた言葉に涙が出た。 「どこにも行けなくても泳いでいいんだよ」 　声がつぶれるようにうるむ。 　何度もうん、うん。と首を振った。 　大人になる度、何かを成し遂げなければいけないと叩き込まれる。ただ好きだけじゃだめだと。でも、本当は意味なんかなくてもよかった。 　あの冷たい水の中で、自由になるのが好きだった。どこへも行けなくていいから、好きなことを好きなままやっていたかった。 「奏多くん――。私、今でもあなたが好きなの」 　少し言い惑うように告げる本心は、伝えるのが怖くて震えが止まらない。向き合うのが怖くて、怖くて震えが止まらなかった。 「……うん、誰のものにもならないで」 　薄暗闇の中、月だけが私たちを見ていた。